【寒空の下で】

ふああああ、と息を吐くと真っ白なそれがふわりと浮かんで消えていく。
てのひらをこすり合わせて、マフラーに顔をうずめるようにうつむくとじっとつま先を見つめた。
（あ、濡れてる）
一晩中降り続いた雪のせいだろうか、積もるほどではないにせよ、道はぬかるんで靴の先は泥で汚れてしまっていた。
それにしても寒い。
四季、なんてもの、忠実に再現しなくてもいいだろうに、とアルトは思うが、春先に咲く満開の桜がひらひらと風に舞うのはとても綺麗だし、夏の、じわじわという蝉の喧しい声を浴びながら食べる売店のソフトクリームは最高においしい。紅葉の季節はなんだか物悲しい気分になるけれど、真っ赤に染まった紅葉が土の上一面に敷き詰められているのを踏みしだくのは好きだ。
冬は。
（雪、だ）
去年はどういうわけか、雪が降ることはなかった。
エネルギーの関係だろうか、きっと出し惜しみした結果に違いない。
今年降るのは、雪を体験したいと子供たちが行政府に嘆願書を送ったからだという噂がある。
朝テレビでおもしろおかしく、まるで感動ストーリーであるかのように大げさに報道していたが、真実なのかどうかは定かではない。
そう、だから、実はあいつと一緒に雪を見たのはこれが初めてだ。

「おーい」
何やってんの、とあきれたような声が頭上から降ってきて顔を上げると、コートとマフラーは身につけているものの、普段とほとんど変わりない表情のミハエルが立っていた。
やっぱり顔の半分をマフラーに埋めたまま、アルトは再びつま先を見つめる。
「何かあるのか」
「ないけど」
くもぐった声で答えて、とん、と地面を軽く蹴った。
泥が跳ねてまた靴を汚す。
「おい何やってるんだよ汚れるだろ」
もこもこのコートを着て、体型が分からないせいで普段以上に女の子に見えるアルトの腕を掴む。
遠めに見ても近くで見ても、着膨れた美少女にしか見えない。
いつもは険しく空を睨む目も、なぜか今日は穏やかでぼんやりしているから余計に。
「・・・ああ、」
なにやら納得したようにミハエルはうなずいて、少し腰を落とすとうつむいたままのアルトの顔を見上げた。
「積もらなかったの、残念だったか」
子供だな、と言いかけて、だがあまりに素直にむっと顔を赤らめるアルトが可愛いものだから、ミハエルはふわりと優しい笑みを浮かべるのだった。
「手袋、こっちのが暖かいかもよ」
「いらない」
「じゃあ手を繋ぐ？」
「繋がない」
「肉まん食いたくない？」
「食いたい」
やっぱり子供だ。
今度こそ声をたてて笑うと、ミハエルは嫌がるアルトの手を手袋の上から握って、颯爽と歩き出した。
今夜は積もればいいなあと呟いて振り向く。
期待していた返事はなかったが、ぎゅっと握り締めた手は振り払われなかった。


＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋


ぬおおおーお汁粉のように甘い！！
ひろむさんのブログのアルトが可愛かったからつい書きなぐってしまった突発ネタでした（笑）
カテゴリのショートコントは違う気がするけど気にしない。