Posted by ぴんもや - 2009.12.04,Fri
ひとりパンドラ祭り第1弾。
さっ寂しくなんかないんだからね!
さっ寂しくなんかないんだからね!
まるでうさぎみたいだ、と葉は思った。
艶やかな銀色の髪に白い肌。ふわりとした白い耳あてに、顎が埋もれるくらいぐるぐると巻きつけられた白いマフラー。仕立てのいい白いコート。だが残念なことにその下はいつもの黒い学生服である。ついでに手には白い手袋。完璧だ。
が、見た目がちょっぴり可愛らしかろうが微笑ましかろうが、中身は老獪なじじぃなのである。
と、こちらの考えていることを表情から読み取ったのかそれとも透視したのか、うさぎはじろりとこちらを睨んで子供のように顔をしかめながら舌を出した。
「なんでそんな顔するわけ?葉のくせに」
「そんな顔ってどんな顔だよ。それよりこっちこそ聞きたいよなんでわざわざ車で移動?あんたならびゅびゅっとテレポートすりゃいいじゃん」
人を運転手扱いしてどこそこへ行け、と命令するなんて、珍しいことだ。
ぶうぶうと文句を垂れる葉に、兵部は白い息を吐きながらふふんと笑った。
「バーカ。大量の荷物を詰め込むからだろ。子供たちへのプレゼントもいるし。それにそろそろ街も賑わう季節だしさ、ちょっとは散歩したいじゃん」
「荷物なんてそれこそテレポートで飛ばせばいいのに」
買い物に行きたいから付き合って、と言われたのは、言いつけられた仕事をこなして帰ってきてすぐのことだった。すでに準備万端の様子で玄関に立っていた兵部は葉に反論する暇も与えずこうして外へと追い立てたのである。
「もうすぐクリスマスだねえ。あ、プレゼント買わなきゃね」
「ん、もうプレゼント買うわけ?」
それはまた今度、と兵部が首を振る。
「欲しいのは帽子。毛糸のやつがいいな。あれあったかそう」
「いいけどさあ」
仕方ないな、と、さっさと車に乗り込んだ兵部が座ったのを確かめてから、ハンドルを握った。
はじめは大きな高級車の運転をこわごわとやっていた葉だったが、ぶつけて壊しても新しいのに買いかえればいいや、という非常にセレブな考えであっさりと乗りこなすようになってしまった。これが真木であれば、兵部にシートベルトを締めろだの、右見て左見てもう一度右を見て、だの細々うるさいのだが、彼は仕事で不在。紅葉はクリスマスセールへと女性陣らと一緒に繰り出してしまった。
「紅葉たちについていけばよかったのに」
「やだよ。女の子の買い物長いもん」
それにこれはどう、あれはどう、といちいち試着して見せるのに対して、きちんと反応してやらねば彼女たちはおおいに拗ねるのである。
「ほらほら、並木に電球がついてる。もっと暗くなれば奇麗だろうなあ」
「ふーん」
興味なさげにあいづちを打って、細い路地を苦労しながら曲がった。
「どこに行くんスか?いつものショッピングセンター?」
「うん、どこでもいいよ。帽子が欲しいだけだから」
「帽子ねえ・・・。あんたそんなもんかぶったらはげるんじゃ、いてっ」
憎まれ口は見えない手で髪をひっぱられた痛みで途切れた。
「ちょっと、引っ張るなよ!」
「大丈夫、はげるだけで死んだりしないから」
「ひっでえ」
くすくす笑う大人げない養い親を横目で睨んでから、おそらく女性陣たちも近くにいるだろうショッピングセンターへと車を乗り入れる。クリスマス用の飾りつけは順調にライトアップを待っていて、行きかう人々もどこかうきうきとしているようだった。
「お腹すいた。先にどこかでお茶しようぜ」
「ハイハイ」
ああもう、これではクソガキのお守みたいだ。
などと失礼なことを一瞬思ったのと、再び強い力で髪を引っ張られたのがほぼ同時で、葉は悪態をつきながら乱暴に車を駐車場の空いた場所へ停めたのだった。
PR
Comments
Post a Comment
カレンダー
最新CM
プロフィール
HN:
ぴんもや
性別:
女性
自己紹介:
ダメ人間を地で行く社会人。
フリーエリア
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
Powered by "Samurai Factory"