Posted by ぴんもや - 2009.11.08,Sun
家族がごほごほ咳きしてるのを見てふと思いついたなんてことない皆兵話。
風邪なのか何なのか。熱はないらしいけど・・・。
風邪なのか何なのか。熱はないらしいけど・・・。
珍しいものを見た、という表情を隠しもせずに、皆本は慌てて窓を開けた。
ついこの間までは暑さに耐えられずクーラーをフル稼働せていたというのに、季節の移ろいはあっというまでいつの間にか冬の気配だ。
乾いた冷たい風が吹きこんで、皆本は兵部の腕を引っ張って中へ促すとがらりと窓を閉め、ついでのようにカーテンも閉めた。こんな高層階で外の目を気にする必要はないのだが、ごくたまに、ボスを探してさまよい飛びつかれたパンドラのメンバーがこの部屋をちらりと見て行くことがあって、そこに兵部がいたりするととても恥ずかしいのでカーテンはいつも閉めることにしている。
彼らは勝手に人の部屋をのぞいても何ら罪悪感を覚えないらしい。おまえはドラクエの勇者か、という突っ込みをしたいが、犯罪者に対して勇者か、という突っ込みもどうかと思う。
「それどうした?」
「これ、ああもううっとうしい」
そう言って口に当てていたマスクを取り去って、そのままゴミ箱へポイしてしまう。
「今朝から咳がひどくてさ。子供たちもいるから一応ね」
「風邪か?」
年寄りは免疫力が低下してちょっとした病気でもぽっくりいっちゃうこともあるんだぞ、と言うと睨まれた。
「空気が乾燥して咽喉が痛いんだよ。それだけ」
「ふうん」
どっかりとソファに腰をおろしてひじ掛けに頬杖をつく姿は病人らしくはないので、咳が出るだけで他には何の症状もないのだろう。顔色だっていつもよりいいくらいだ。
「そうだ、いいものがある」
「なに?おやつならザッハトルテが食べたいな」
「違う」
あっさり否定して、皆本はキッチンへ行くとごそごそと作業を始めた。
客にお茶も出さずに何をしているのだろう。
むっとして、兵部がテレポートでキッチンへむかうと皆本が眼鏡の奥の目を大きくして、学生服の肩を掴むとくるりと方向転換させた。
「すぐ飲み物用意するから待っててくれよ」
「何だよ」
もう、と拗ねたように唇を尖らせてから、仕方なくリビングに戻る。
テレビをつけてもおもしろいものはやっていないし、音楽がかかっているわけでもない。興味をひきそうな書物は皆本の寝室だし、わざわざ取りに行くのは面倒だ。
テーブルに放り出されている新聞をめくりながら世間の情勢に目を向けて見ても今朝アジトで読んだ以上の情報は何も書かれていない。
「おまたせ」
やっと現れた皆本の手には大きなマグカップ。湯気をたてているそれはほんのりと甘い香りがした。
「なにそれ?」
「生姜ハチミツ。咳にはこれがいいんだ」
「作ったのかい?」
「スライスした生姜とカリンをハチミツにつけてあるんだ。いつも誰か風邪をひくと飲ませる」
「へえ。おいしそうだね」
受け取って両手で包みこむようにして息を吸うと、それだけで体が暖まるような気がした。
「たくさんあるから持って帰れよ」
「うん、そうだね」
きっと真木がぷりぷり怒りながら作り足すだろうな、と考えてぷっと笑う。
「で、まさかこれだけってことはないよね?」
「え、いや、それは」
困ったように皆本は目をぱちぱちさせて、そっと兵部の肩を抱こうとする。
それをくすくす笑いながら白い手で追いやって、舌を出して見せた。
「おやつは?て意味なんだけど」
「あ」
君は何を考えたのかな、とからかうように言うと、皆本は顔を真っ赤にして、走ってキッチンへと戻って行ってしまった。
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