でも長くなりそうだから妄想で終わらせようと(笑)
予期しないエラーが発生しました。
強制的にシャットダウンします。
世にも恐ろしい一文がモニタに現れて、ひぃぃと背筋を冷たくしているうちに、ブツッと音がして真っ暗になった。
「ああああああああ………」
半日ほどかけてようやく完成しかけたものが一瞬にして消える。
あまりに集中していたためバックアップも半分ほどとれていない。
いやそもそもパソコンは大丈夫なのだろうか。
今夜中に、と自分の中で決めたノルマを達成しなければ寝られないが、パソコン本体が故障してしまうとさらに遅れが出るだろう。
もちろんパンドラのアジトには何台もの最新パソコンが常備されているが、やはり使い慣れたものでないとやりづらい。
がっくりと肩を落としてうなだれ溜息をついていると、がちゃりとドアが開く音がした。一瞬兵部少佐か、とも思ったが、ふだん彼がまともにドアを開け閉めして現れる確率は低く、気配も違う。
「あれ、何やってんの真木さん」
のんきな声がして、予想通り葉がひょっこり顔を出した。
「いや、ちょっとパソコンの調子が悪くてな……」
「ふうん。まさか少佐みたいに変な動画見てたんじゃないっすよね?」
「変な動画ってなんだ」
あの老人はまさかエロ動画でも見ているのだろうか、と心配になったが、あまり触れない方がいいだろうと真木は目を泳がせた。
「ん、なんだ仕事してたんすか」
テーブルの上の散らばった書類を一枚つまみあげ、興味なさげに鼻を鳴らす。
「なになに……秋の大運動会のお知らせ?超能力種別部門と混合部門の二日間開催、スケジュールはこちら……。真木さんこれって」
ざっと流し読みをして、だんだん葉の目が据わっていく。
真木は眉間にしわを寄せながら紙を奪い返した。
「それを元に決定稿を入力していたんだ」
「この表も?イラストも?何このポップなデザイン」
明るくさわやかな可愛らしいイラストに、大まかなスケジュール表と、細かい説明書き。子供にも読めるようにふりがなをふったり簡単な文章にしたりと何かと気配りの見えるそれはとても大柄なひげ男が作成したものとは思えなかった。
「そうか、もうすぐ運動会かあ。……もしかして少佐」
「ああ、おまえの予想通り大張りきりだ。午前中二人三脚の練習をしていた」
「まじか」
年甲斐もなくはしゃぐなよ、と思いつつ、ふたりは同時に遠い目をした。
どこまでも子供に甘いおじいちゃんは、ねだられるままにいろんな種目に子供と一緒に出場してはへロヘロになって三日間寝込むのが毎年の恒例行事になっている。
バベルに軟禁されていたときも、運動会を楽しみにしていた。何かと行事が好きなのは、子供たちと触れ合えるからなのか、たんにお祭り好きなのか、判断が難しいところだ。
「でもあんまり調子に乗せない方がいいっすよ。さっきダルそうにしてたから部屋に追い返したけど」
季節の移り目は風邪をひきやすいからなあ。
頭の後ろで手を組んでのんびりと言った葉に、真木は目を見開いて慌てて立ち上がる。
「何だと?早く言え!」
「え、ちょっと!」
そのまま振り向きもせず、パソコンの不調のことも忘れて駈け出して行く真木の背を見ながら葉は唇を尖らせた。
「おおげさすぎだっつーの」
そりゃあ、兵部の体のことはいつだって大きな不安要素だ。
体調の良い悪いは一見して本人以外誰にも分らないが、それでもまれに見せる顔色の悪さや、取り繕う余裕もないほど具合の悪いときは、見ている方も心臓がきゅぅっと痛くなって辛くなる。
だがさきほどサロンでだらだらしていた兵部はどう見てもただの風邪か寝不足と言った症状で、昨夜遅くまで桃太郎とゲームをして騒いでいた彼を知っている葉にしてみればそこまで心配する類のものではない。
その上で午前中子供たちと運動会の練習などしていたのだから、具合が悪くなるに決まっている。
(年だし)
が、真木にとっては違うのだろう。
兵部がケーキの食べ過ぎで腹を壊したくらいで真っ青になって右往左往するほどだ。
少しは落ち着けと突っ込みたい。
軽くドアをノックして兵部の部屋に足を踏み入れると、真木はぴくりと片方の眉を上げた。
「……葉からあなたの具合が悪そうだと聞いてきたのですが、何をやってるんですか」
唸るような低い声に、こちらに背を向けていた兵部が振り返る。
「やあ真木。どうしたんだい怖い顔して」
「……何してるんです」
もう一度同じことを尋ねると、タオルケットをぐるぐると体に巻き付けて床の絨毯にぺたりと座りこんでいる兵部がテレビを指さした。
「去年の運動会のビデオ。よく撮れているよねぇ」
「……………………」
もはや呆れて声も出ないまま突っ立っている真木を不思議そうに見て、兵部は再びテレビ画面に視線を戻した。
子供たち以上にすごく、ものすごく、運動会を楽しみにしているらしい。
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