Posted by ぴんもや - 2009.12.05,Sat
まだまだ続くよ。
運よく席の空いていたカフェテリアで、大きなマグカップを手袋を外した両手で包みこんでふうふうと息を吹きかける様は、天使のように可愛かった。これで中身も天使ならどんなに良かっただろうか。正体は悪魔である。アーメン!
葉はふてくされた顔でアップルパイをつつきながらうんざりと頬杖をついて外を眺めた。
のんびりしているうちに日も暮れてきて、いつの間にか木々にとりつけられたイルミネーションがほんのりと色をつけ始めている。そのうちこのショッピングセンターの中央広場に設置された巨大なクマ(なぜクマなのかいまいちよく分からないが)もきらきらと電飾で輝きだすのだろう。
兵部はずりずりとカフェオレをすすりながら、入口でもらったパンフを広げた。
「えーっと、あ、ここセールやってる。葉、この店に行こう」
「いいけど・・・そこ女どもがたくさんいそうじゃねえ?女子高生とか」
「え?いいじゃん。おまえ好きだろ女子高生。好きなんだろ?」
「なんで二回言うんだよ別に興味ねえよガキなんか!そうじゃなくて、あんた目立つからさあ」
そうでなくても、こうして座ってお茶をしているだけでちらちらと視線が煩わしい。これがピチピチの女の子だけならまだしも、よろよろしながら歩く老婆から何故か男連中までやけに人目をひいている。
黙っていればアイドルもびっくりの美少年である。無理もない。これにくわえてボンボンのついた毛糸の帽子などかぶらせたらさらに目立ちまくりでツリーも真っ青だろう。
「じゃあヒュプノでもかけてみる?こんな感じ」
ひょい、と兵部はESPを使ってみせた。彼自身から発するESPで周囲からはそれまでとは違う人物に見える。葉は慌てて丸めていた背中をのばした。
「うわ」
現れたのは銀色の長い髪をくるくる巻いた美しい女性だった。蕾見不二子に似ているが彼女を模倣したわけではないようだ。と、葉は胸を見てから判断した。彼は巨乳が大好きだが目の前にいる美女は並である。いやそんなことはどうでもいい。
「ちょっと、少佐」
「ふふん。デートっぽくね?あ、設定はさ、ウクライナに住んでいるマスール大使の嫁で名前はエカテリーナ、現在秘書と絶賛不倫中」
「いらねえよそんな設定!いいよ変装しなくて!」
かえって目立つわ!と大げさに突っ込むと、仕方なさそうに兵部は元の姿に戻る。
「ちぇ。じゃあいいや、とにかくこの店に行きたい」
「はいはい分かりましたよもう」
じゃあ店に行こう、とカフェを出て、きょきょろしながら歩く兵部の腕をつかんだ。
「じじぃ、迷子になるぞ」
「誰がじじぃだ」
じゃあこうしよう、と。
兵部はにやりと笑って、分厚い毛糸に覆われたてのひらで葉の手を握った。
「ちょ、おい!」
男同士で手をつなぐなんて周囲から見たらどう思われるか。慌てて振りほどこうとぶんぶん腕を振ったが、兵部はけらけら笑いながら放そうとしなかった。
「いいじゃんいいじゃん。兄弟ってことで。迷子にならないようにちゃんと手を繋いでてよ、お兄ちゃん?」
上目づかいににこりと微笑んでちょっぴり首を傾げてみせる。
(こ、の悪魔…・・・)
ちくしょう、一瞬でも可愛いなんて思った自分が憎い。
じろじろと無遠慮な視線に晒されながら、ふたりはやけに可愛らしいファンシーな作りの店に足を踏み入れた。こうなったら仕方ない、「とても仲のいい兄弟」を演じるしかないだろう。
奥の棚にユニセックスものの帽子やマフラーが並んでいるのを見て、葉は繋いだままの手を引っ張った。
「ほら、あっちにあるぜ、京介?」
呼びなれない名前を口にして反応をうかがうと、兵部は一瞬目を丸くしてから、慌てて意地の悪い表情を作った。
「てっぺんにボンボンのってるやつがいい」
「子供っぽすぎじゃね?どう考えても80過ぎのじじぃの被るもんじゃ・・・いって!」
思いきり脛を蹴られて声を上げる。
「そうだ、おまえも好きな服選んでいいよ。買ってあげるから」
すれ違う客が兄弟が逆転している会話を耳にして驚いたように振り返る。
ふたりは、しまった、と顔を見合せて、ぷっと笑った。
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