Posted by ぴんもや - 2008.09.16,Tue
裏ではこんなことやってたんですよね!
本編でこういうのやってくれたらいいのにシリーズ第1弾
(第2弾をやるかは不明)
本編でこういうのやってくれたらいいのにシリーズ第1弾
(第2弾をやるかは不明)
これを着ろ、と渡された新統合軍の制服に袖を通したが、着なれないためにささいなことばかりが気になった。かっちりしている襟元だったり、サイズが間違っているのか若干長めの裾だったり。間に合わせで用意されたものなのが分かる。それでも、もうこのフロンティアでSMSの制服を着ることは許されない。彼らは裏切り者なのだ、と。誰もが思っている。
ランカのことも、オズマのことも、そして「前」大統領の娘のことも。
さほど時間がたっているわけでもないのに、状況はめまぐるしく変化していった。
相棒でありライバルであり、心を通わせた親友を失い。
友人は傷つき、また手の届かない場所へと飛び立ち。
SMSとともに行かなかったアルトを、賢明だと言う者はあっても白い目で見る者はほとんどいなかった。
それがアルトにとってはつらい。いっそ、どうして一緒に行かなかったのかと責められた方がまだ良かった。
糾弾されれば、彼らには彼らの目的があり、主義主張があるのだとかばうこともできただろうに。
これではSMSが裏切り者であり犯罪者であると認めるようなものではないか。
(おまえなら、どうした)
おまえなら。
長い廊下で立ち止まって外を見た。
かつて緑に囲まれていた美しい風景は一変し、瓦礫と、破壊された街並みが広がっている。
ちかちかと眩しい光を放っていたネオンは沈黙したまま動かない。
環境維持のためのシステムも最低限に抑えられ、もはや生命維持を優先させるだけの味気ないものになっていた。まじまじと眼下を眺めてアルトは愕然とする。
もう学校へ行くこともないだろう。
行ったところで誰もいないではないか。
目を閉じると、ついこの間のできごとが遠い夢のように感じられた。
屋上から飛び立つときの高揚感。
ミシェルと競争しては敗北して喧嘩をふっかけたこと。
学校の連中はおろか教師からですら姫呼ばわりされて怒ったこと。
それを、ミシェルやルカ、ナナセが笑いながら見守っていたこと。
あまりにも遠い。
ふと前方から話し声が聞こえて顔を上げると、小柄な人物を先頭に五、六人の集団がこちらへと歩いてくるところだった。軍服をきっちりと着こなした先頭の人物はぱっと顔を輝かせて走り寄ってくる。
「アルト先輩!」
「ルカ」
どこか鋭さをました、幼いとばかり思っていた後輩がにこりと笑いかけてくる。
思わず安堵して、アルトも微笑み返した。
「なんだかお久しぶりです」
「ああ。忙しそうだな」
LAIの技術者として膨大な情報分析をこなす彼は、もはや可愛らしい学生の姿ではなかった。
後ろに従えた男たちは技術者のチームなのだろう。
「先輩、大丈夫ですか?顔色、あまりよくありませんよ」
けなげにも心配そうに言う後輩に、アルトは肩をすくめてみせる。
ランカのこと、SMSのこと、そしてシェリルのこと。
どうにかしたくともどうにもならないものばかりをつきつけられ、確かに疲れていた。
なぜ、どうして、こんなことに。
そんな問いはもう何の意味もなさない。
「まあ、仕方ないさ。それに働いてるときは余計なことを考えずに済むからな」
「そう、ですね」
ルカが不安そうにうつむいた。
言いたいことは、わかる。
シェリルの歌声にフォールド反応があることに気づいたのは彼だ。
そして、フロンティアのために、生き残りをかけて彼女を利用しようとしている。
罪悪感で胸を痛めていることも、アルトには分かっていた。
誰も責められないことだ。そしてシェリルはそれを受け入れている。ならば、ここでルカを恨む筋合いはない。憎むべきはバジュラであり、他の何者でもないのだ。
「なんだか、寂しくなっちゃいましたね」
ぽつりとルカはつぶやいた。
近くにいて当たり前だと思っていた存在がひとりまたひとりといなくなる喪失感。
いまとなってはアルトとルカだけになってしまった。
過去を思い出してか、どことなく泣きそうになっているルカの肩をぽんと強めに叩いて、アルトは手にしていた報告書をひらひらと振って見せた。
「落ち着いたら飯でも食いに行こうぜ」
「・・・はい!」
ぎゅっ、とこぶしを握って、ルカが顔を上げる。
「隊長!!」
後ろから大きな声が上がったかと思うと、新たに編成されたアルト率いる小隊の隊員がぶんぶんと手を振りながら走ってきた。
「どうしたんだそんなに慌てて」
「す、すみません。さっきロビーに、シェリルが」
「・・・はあ?」
「それで、大騒ぎになって。いまみんなサインもらおうと群がってますけど、その、アルト呼んできて!て、シェリル怒ってて」
「・・・あー・・・」
高い天井を仰いで、アルトは大きく息を吐いた。
「すぐ行く」
「早く来て下さいね!」
そう言って彼はまたぱたぱたと大げさな足音をたてて戻って行った。
彼の手にはちゃっかりと色紙が握られている。
「大変ですね、アルト先輩も」
その言葉には様々な意味が含まれていたのだが、あえてルカは明るく冗談めかして言った。
「まったく。わがまま女王様の相手も疲れるぜ」
笑って、じゃあな、とアルトは部下を追った。
ふたりの会話をじっと黙って聞いていた技術者たちが、アルトの背を見つめながら久しぶりに声をあげる。
「主任、あの人とお友達だったんですか」
「アルト先輩ですか?僕の学校の先輩です。早乙女アルト。知ってるでしょう?」
「もちろんです!桜姫ですよね!」
あれ、そっちか、とルカは思ったが、苦笑いを返して、そうです、とうなずく。
「美人ですよねえ」
「さすがあのシェリル・ノームと付き合ってるだけはあるよなあ」
「シェリルのために、フロンティアに残ったんでしょう?やっぱ愛ですかねえ」
口々に勝手なことを言っている彼らに曖昧に首を振っておいて、行きましょう、と促した。
一度振り返って、小さくなるアルトの背を見つめる。
せめて、彼だけは絶対に失いたくないと、そう思いながら。
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