Posted by ぴんもや - 2009.12.07,Mon
買い物へ行く、と告げたパティに、半ば強引についてきたのは黒巻だった。案の定アニメショップへ行く「ついでに」洋服を買う、というパティに異論はない。
黒巻は、実は誰にも言わないがわりとカワイイ系の洋服や小物が大好きだった。ふだんボーイッシュな雰囲気に統一してガムを噛みつつ私あんまりオトメチックなのは興味ないのよネー、という「テイ」を装ってはいるが、こっそりふりふりの服を着ては鏡の前でポーズをつけてみたり、いまだにバベル時代のライバルナオミを逆恨みしつつ負けるものかとダイエットに励んでいたりもする。なので、パティが好んで着ている服のブランドにも興味があった。ひとりでは入れないしそもそもどの店なのか分からない。だがパティと一緒ならば同行者の顔をして堂々と入店できるのである。
この年頃の娘さんに多い、いわゆる「自意識過剰」っぷりは、本人の知らないところでパンドラの周知の事実だったりもするが、それはまあいいだろう。
そんなわけでふたり一緒に連れ立ってアニメショップで買い物をし、黒巻はいつも買っている漫画の新刊を、パティは漫画やら薄っぺらい本やら缶ジュース(なんでそんなものがアニメショップで売っているのか理解不能である)をぶら下げて、大型ショッピングセンターへやってきたのだった。
「そういえば」
と、黒い袋をがさがさ言わせながら金髪の美少女が黒巻を仰ぐ。
「紅葉さんたちもここにいるんじゃないでしょうか」
「あー。そういやそうだね。すれ違うかも」
一緒に行くかと誘われたのだが、それを断った手前遭遇するのはなんとなく気まずい気もする。が、おそらく紅葉たちは何ら気にはしないのだろう。パンドラのメンバーは良くも悪くもフリーダムで、あまりネチネチした性格の人間はいない。そもそもそういううっとうしい性格をしている者は連れ立ってショッピングになど行かないのだ。
パティが誘導するままにエスカレーターをのぼり、ゴシックテイストな入口の店の前で立ち止まってここだ、と言われるのにうなずいたとき、聞き覚えのある声がした。
「あれ、ふたりとも何してるんだい?」
「あ」
慌てて振り向けば、葉と、やけに白い完璧な防寒具で身を固めた敬愛すべき上司が立っていた。
「少佐」
「ボス」
見ればパティは焦った顔でエコバッグを取り出してアニメショップの袋を押し込んでいる。布のエコバッグにも小さくアニメプリントがされているのであまり意味はないと思うのだが。
「買い物?」
「え、あ、そうです。パティがど~してもこの店で服を買うっていうから」
「・・・・・・・」
「ふうん?」
な、と目配せする黒巻に、パティは無表情のままうなずいた。ちょっぴり額には汗が浮かんでいる。
「へえ。なんかすごいお店だね」
「これゴスロリってやつ?違うか」
「いや違うだろ」
珍しげに店内をのぞきこむ男ふたりに、どうしたものかと迷っていると、兵部はうきうきした様子でりょうてのひらをぱんと叩いた。ちなみに手袋がコートのポケットからはみだしている。
「なあ、欲しいもの買ってあげるから、僕らも入っていい?」
「・・・・・・え」
黒巻と葉の声が合わさる。ふたりは視線を交わして、心底面倒だという顔をした。
「いいじゃん。男ふたりでは入りづらそうだし。でもこういう店興味あるなあ」
「あんたさっき思いっきりファンシーな店に入りましたよね。無理やり俺の手つかんで入りましたよね」
「手を・・・掴んで」
ぼそりとパティが呟いて、ぷぷぷっと奇妙な笑いを発した。いつものことなので気にしない、が、不気味であることに違いはない。
「どうするパティ?買ってくれるってさ」
「・・・・・・入ります」
アニメショップに同行されるより100倍ましである。
うなずいて、意を決したように店内に足を踏み入れるパティに足取り軽やかな兵部が続く。彼の顔はかわいい孫の買い物につきあうおじいちゃんそのものである。きっとどんなに高いものをねだっても嬉々として買ってくれるのだろう。
「まあ、いいけどね」
やれやれ、と、葉は無理やり押しつけられた紙袋を抱えなおして、ふたりの後を追った。
「・・・・・・ドサマギでワンピでも買ってもらおうかな」
パティに大量の買い物をさせて、しれっと自分の欲しいものを混ぜておけばOKだ。
黒巻はひっそり笑って、店の中の天井からぶら下がっているシャンデリアを睨んだのだった。
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