あ、じゃあここまでがひとりパンドラ祭り「第1弾」ってことで(笑)
時系列順
①『うさぎとお買いもの:前編』
②『うさぎとお買いもの:後編』
③『夢見る少女もお買いもの』
④『健全な少年とはちあわせ』
⑤『帰ったらもう一度ご飯』←NEW!
「おしかったなーあそこのラーメン。私2回も替え玉頼んじゃったよ」
「おいしかったですね。また行きたいです」
ほくほく顔で前を歩く少女たちの後を、三人の青少年(ひとり違うのが混ざっているが)がとぼとぼとついていく。見た目十代半ばから二十代前半くらいの男たちだが、平均年齢は39歳くらいである。ひとりで平均をあげている人物がいるのだが触れない方が身のためだろう。
「ちぇ。結局ラーメンかよ」
「いいじゃないですか。おいしかったし。少佐、ごちそうさまでした」
「うん。カガリはいい子だね。それに対してこのもじゃ毛ってば・・・」
「悪かったな!はいはいすいませんでしたー!」
兵部はしおらしく頭を下げるカガリの頭をわざとらしく撫でつつ葉を横目で見て肘でつつく。ぎゃあぎゃあうるさい上司たちを、パティと黒巻はあきれた様子で振り返った。
カガリと葉は両手に三つづつ、明らかに多すぎる荷物を抱えている。アジトで待っている子供たちへのお土産をあれもこれもと選んでいるうちに膨れ上がってしまった。すぐにテレポートで車まで運ぼうとも思ったが、駐車場へ向かいながら店をちょこちょこのぞいていたら結局こうなってしまった。
運転席に葉がおさまり、カガリが苦労しながら荷物を入れて兵部と少女たちの座席を確保する。
「結局紅葉たちとは会わなかったな」
「あ、カズラたちなら」
車を発進させて、疲れた様子で呟いた兵部にカガリが声を上げる。
「ここで食事した後すぐに別のところへ向かったみたいです。カズラからメール来ました」
「へえ。どこへ行ったんだろ」
「ミラノって言ってましたけど」
「・・・・・・ミラノ?」
カガリ以外の全員が復唱して、顔を見合わせた。
「わざわざ外国までブランドあさりにいったのか」
「クリスマスプレゼントって言ってましたけど」
「自分たちへの、だろ」
「ですよねー」
誕生日、クリスマス、バレンタイン。彼女たちにとってのプレゼントとは、自分へのご褒美の「ついでに」他のメンバーへ渡すという意味である。もちろん、兵部へ対する感謝の気持ちは最優先されるのだろうが、おそらく自分へのプレゼントもほぼ同格にあるに違いない。
「そんな顔するなよ。君らだって欲しいものちゃんと買ってあげただろ?」
「ありがとうございました、少佐」
頬をうっすら赤らめながらパティが頭を下げる。数万円のワンピースとバッグ、アクセサリーをカード一枚でひょいと購入してもらった礼は忘れない。その中に三点ほど黒巻のものも混ざっているのだが、まだ彼女は気付いていなかった。
「今日の夕飯何だったんだろうね」
「食った直後にその心配かよ」
「あ」
葉の突っ込みが終わらないうちに、カガリがはっとしたように眼を丸くした。
「どうしたのさ」
「そういえば・・・今日真木さんが」
「真木が?」
しまった、と大げさな顔をしながらカガリが兵部に言う。
「今日は朝からおでんを大量に作ってました」
「・・・・・・ま、まあでも、他にも家にいるメンバーはいるんだし」
「そうですよ。子供たちとコレミツ先輩とマッスル先輩がいますよ」
ちゃーららったったー。
気の抜けるメロディが響いて、兵部がポケットを抑える。
「あ、マッスルからメールだ。えーっと。・・・・・・・・」
「なに?」
ちらりと葉が振り返った。車は赤信号で停止する。やけに大きな高級車に、周囲の車は大きく間隔を開けて見守っていた。確かに近寄りたくない。
「・・・・・・・・・。コレミツとマッスル、子供たちを連れてアフリカのジャングルに遊びに行ってるらしいよ。今日は泊ってくるって」
「・・・・てことは」
「もしかして、今家には真木さんひとりなんじゃ」
朝から丹精こめて作ったおでんをひとりでつつく真木司郎。
五人は、それぞれ視線をそらしつつ、窓の外を眺めるふりをしながらそっと目尻に滲んだ涙をぬぐった。
(ドンマイ・・・!!)
一方そのころ。
真木は誰もいないしんとした食堂で、エプロンをつけたままうなだれていた。
数十人が一度に食事ができる大きなテーブルの中央には、特大の鍋が置かれている。ぐつぐつと煮えたぎった中には、ごろごろと大量の具材が放り込まれ、食欲をそそる匂いに満ちていた。が、食堂のエアコンは消えていてひどく寒い。
「なんで・・・」
ぼそりと真木は呟いた。誰もいないのに。
「なんで誰も帰ってこないんだ!!」
ひどすぎる。
真木はポケットから携帯を取り出すと、ほぼ毎日食卓を囲んでいるメンバー全員に対して一斉にメールを送った。
『ご飯を食べてくるときは前もって言いなさいっていってるでしょう!!』
数分後。
震えだした携帯を開くととてもシンプルな一言が書かれたメールが届いており、真木はその携帯を放り投げて食卓にうつ伏せたまま動かなくなってしまったのだった。
『おまえはおかーさんか!by兵部』
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